2019年ふりかえり

同人誌を生産する生活

同人誌制作が生活の中心だった。妻が同人活動を始め、それに振り回された一年といえる。妻はもともと絵を描く人だったが、ある日突然漫画も描くようになった。配偶者とはいえ、ひとの趣味なので始めは放置していた。だが、どうも雲行きが怪しい。スケジュールが破綻していたのだ。新刊が落ちるかもしれない、そんな状況で2019年を迎えた。年末年始の休暇をすべて費やし、私はスケジュール管理とアシスタントをすることになった。妻は1日に4ページの作画をこなし、私がベタとトーンを塗る。正月も休むことなく作業をし、締切前日には当然のように徹夜をした。

 

同人誌を作るのは文化祭の準備と似ている。あらゆる手段を使って完成させ、イベントで頒布しないといけない。本を用意できたら対面販売の喜びが得られる。インターネットで得られるただの数字とは違って、目の前の人が本を買ってくれるのだ。狭いスペースに何時間もいるのは疲れるが、精神的にはそれを上回る満足感がある。イベントの熱気に浮かされた我々は、また次の参加申し込みをしてしまうのだった。

 

こうして生活は同人誌制作に支配された。妻は常にネームか作画をしているし、私は余暇の一部でレビューとスケジュール管理、アシスタントをしている。

 

同人誌を一冊作るには2ヶ月が必要だ。ページ数は30〜50くらい。1ヶ月かけて妻がネームを書き私がレビューをする。不自然な話の流れがあれば相談の上軌道修正をする。たいてい終盤が問題になる。自分が何を描いているのか理解するには時間がかかるからだ。なんとかネームを確定させたら残りの1ヶ月で作画を仕上げる。ネームの時点ではコマ割りと台詞しかないので、下書きとペン入れ、ベタ、トーン、仕上げをやる。

 

当然、生活に問題がでた。掃除や洗濯は自動化されていたが、食事が課題になった。調理に時間をかけたくない。だけど、食事の質は落としたくない。共働きな我々は、残業をしたら自炊が難しくなる。ホットクックも使っていたが、調理釜を洗う余裕がなければ運用できない。

 

答えは大量のつくりおきだった。日曜日の夜に、8リットルの寸胴鍋で調理をする。平日は小鍋に取り出して温める。炭水化物はマカロニや白米、パスタ、パンなど。レシピはポトフ、トマト煮、おでんに近い何か、カレー、ハヤシライスなど。野菜と肉を大量に入れて作るので、栄養は完璧になる。

 

飽きないのか?飽きるがそれは問題ではない。外食で移動や食事に時間をかけたり、コンビニごはんで栄養バランスに苦労するよりはましなのだ。もちろん飽きへの対策はある。例えばトマト煮であればマカロニと具だくさんのスープ、チーズを使って電子レンジで焼けばよい。土日が忙しい時はどうするのか?その週は諦める。次の週に挽回すればいい。

 

5日ぶんの食事となると、どうしても調理に時間がかかる。具材を切るのに時間がかかるし、調理の順序に気をつかうと*1、1時間から2時間はかかってしまう。とことん雑な調理をしたら30分でできるかもしれないが、どんな味になるかわからなくて試せてない。だが、2時間の投資で食生活が保証されるなら安いものである。

 

生活の安定性

同人誌生産でも、毎日少しずつ進めると効率がよかった。気まぐれに手を動かす作戦だと、ひとつのタスクが重くなって手をつけづらくなる。重いタスクのことを考えると、脳裏にこびりついてストレスになる。軽めの日課にするとストレスもなく成果が出るようになった。

 

この方針を端的に示すよい言葉がある。

昔、心理学の教授に「ひと鍬(くわ)だけ入れておこうね」ってアドバイスをもらったことがある。

https://anond.hatelabo.jp/20150714165131 *2

ひと鍬とはどのくらいか。漫画だったら一段ぶんの下書き、ペン入れ、ベタとか。読書なら1, 2ページでもよい。よっぽど気力が尽きていたなら、書きかけのページを眺めるだけ、既に読んだところを眺めるだけでいい。もし元気があれば、もっと進めてもいい。

 

毎日少しずつやっておくと、土日にたくさん進めなくてもよくなる。休みの日は仕事の疲れを癒やすのに使うものだ。毎日積み上げた成果があると、土日にだらけても心は軽くなっている。私は身体の言うことに任せて昼寝をするのが好きだ。

 

毎日一定の出力を出すには、生活の安定性が鍵になる。平日はできる限り19時に帰宅し、20時以降は自由にしておく。残業は避け、仕事が多いときは朝を早くする。飲み会もあまり行かない。酒の力を借りた会話は尊いし、楽しいのだが、生活リズムとの兼ね合いが難しい。できることなら16時に退社して飲み始めたい。

 

生活を安定させるには体調が大事だった。体調は睡眠運動食事、ぼーっとする時間に支配されている。特にぼーっとする時間が大事だ。この文章ではこれを無と呼んでおく。無をやる、無になるといった使い方をする。無はストレスを癒やす儀式で、副交感神経を高めるものだ。何もしなくても食後ぼーっとしていれば無になるのだが、ゲームや仕事を始めると無が消えてしまう。無の時間を削ると胃腸が荒れ、体調の悪化に繋がる。もちろん睡眠と運動も欠かせなくて、睡眠の質が運動に依存しているし、胃腸のお天気も運動で決まる。つまり、毎日運動をするしかない。

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働いて趣味をやりながら、運動もやるなんて無理なのでは……。私もそう思うし困っている……。鍼の先生によると、食べて1時間くらい経ってから、散歩すると良いらしい*3。とはいえ、時間が厳しい。食後の散歩はまだ習慣にできていない。仕方ないので週1のジムで運動の時間を確保している。

 

体調管理

原稿に肩を破壊された妻が鍼に通いだした。鍼は肩だけでなく体調にも効くらしい。面白そうだ、くらいの気持ちで鍼へ通ってみると、冷え性と胃腸の弱さを指摘された。これには心当たりがあった。冷えとだるさはここ数年の悩みだった。胃カメラを飲んで「ストレス性の問題ですね」で終わったこともあった。

 

鍼へ通うとすぐに効果が出た。初日の晩にはぼーっとして心地よい体調を体験できた。無の強度がすごいやつ。2週間ほど経つとだるさが消えていた。1カ月もすると冷え切っていた足が暖かくなってきた。血流がまともになり、むくみも目立たなくなった。数ヶ月前とは別人のようである。

 

ただし、治療は受け身でいればよいものでもない。鍼に通っても、猫背の習慣がある限り肩こりは治らないだろう。大事なのは、鍼をきっかけに身体の変化を感じとることだ。筋肉を柔らかくしてもらえると、忘れていた姿勢を体験できる。この感覚を観察して習慣を変えると効率的に健康を取り戻せると思う。

 

鍼の体験から身体の観察が大事に思えてきた。Fitbitを使っていても、いまいち数値と体調が結びつかない。睡眠スコアが高くても起き上がれないことはあるし、最高の目覚めをしたときはスコアを見る意味がない。そういえば、人工のセンサーに頼らなくても内臓や筋肉には大量の神経が通っている。腕でとれる情報なんてほんの一部だ。自分の感覚を磨いたほうがいいのではないか。では、感覚を磨くにはどうしたらいいのか。ぼーっとするついでに、体内へ目を向けるのが良い気がする*4

 

本業

人に合わせることを覚えた。今年はチームビルディングに挑戦し、人の割り当てが天から降ってくることを知った。(優秀な)マネージャーは、その場その場で最善を尽くして判断をする。それでもどこにどんな人が当たるのかは運で決まる。あるいは、そう考えたほうがよい。というのも、マネージャーといえども、そのとき手元にあるリソースから選ぶしかないからだ。複雑な社会で商売をやっていると、将来にわたって誰が余るか、どのプロジェクトの優先度が変わるか、なんて予知できるわけがない。その時々の局所最適をやっていくほかない。

 

人の行動はあまり変わらないこともわかってきた。ほとんどの人は自分で制御しきれない癖を持っている。なぜ癖があるのかもわからないし、気がついたらそうしてしまっている。カントも人は曲がりくねった木だと言っているし、そういうものなのだろう。なので、リーダーが柔軟に合わせるしかない。短期的には諦めて、数年後の変化に期待するようにした。不思議なことに、ちょっとダメだと思った行動も半年や数年経つと変わってたりする。

 

行動は自分で考えたときに変わるようだ。他人から指摘をされても、たいてい何も変わらない。これに気づいてからは他人に指摘をしないようになった*5。何か問題が起きたとしても、悪いのは環境や構造である。人間は環境に適応して行動するので、環境整備に気を配ったほうが生産的だ。

 

自分で考えるにはどうしたらいいのだろうか。「自分の考えを疑う習慣」が有効だが、メリットとは裏腹にあまり勧められない。自分を疑う習慣はストレスにつながってしんどいのだ。いったんこの癖がつくと、考えが暴走して休めなくなる。自分を休ませる習慣もセットで身につけないといけない。

 

具体的なフロントエンドの話。redux-sagaで大量のロジックを書いた結果、手足のように使いこなせるようになった。当初は苦手意識があったものの、blocking Effectとnon-blocking Effectの違いを理解したらスルスル書けるようになった。UIと通信が絡み合うときに便利だ。async, awaitより好みかもしれない。

 

reduxは嫌いだったのだが、react-reduxがhooks対応してからはどうでもよくなった。もうconnectは使わなくていい。ただ、管理画面をreact / reduxで綺麗に作れるのかは気になっている。シンプルなアプリケーションならObjectに状態を押し込んでも管理しきれるが、ある複雑さを超えるとOOP的なアプローチをとりたくなる。classとメソッドを使うとshallow compareとの相性が悪くなり、immerやimmutableも出てくる。そもそも複雑な仕様を回避すべき、という話もあるが、ビジネス上の要求によってはそれもできない。compareまわりの問題はreactそのものに関わるので、reactを使う限りはシンプルなObjectに寄せておくのが良いのかも。facebookは複雑なロジックをサーバーに逃がすgraphQL方面のアプローチをとっているが、これが現実的なのだろうか。

 

読書

毎日風呂で読書をしている。風呂蓋の上に本を置き、鉛筆と定規で線を引きながら読む。ジャンルは人文科学、新書、小説など。私の職業はソフトウェアエンジニアだが、家では技術書を読まないようにしている*6。リスク分散を意図していて、視野が狭くなるのを恐れているのだ。

 

今年は社会学だけでなく哲学にも時間を割いた。もともとレヴィナスの全体性と無限に興味があったのだが*7、彼の師であるハイデッガーの本を読み始めたら半年が溶けてしまった。

 

半年もハマったのは、人間がよく分析されていたからだ。私は十代の頃から人間は不思議だなあ、くらいの興味を持っていた。なんとなく情報学の進路を選んでしまったが、人間への興味は諦めきれないところがあった。そのため、情報学の中でも人間を扱うVR人工知能の研究室を選んでみた。だが、研究が全然面白くない。そこに興味はなかったのだ。やる気が出ないなか、しょぼい研究をして卒業し、労働をはじめた。そして数年後、たまたま見つけた社会学者のブログをきっかけに人文科学の読書が始まり、今年になってようやく哲学に行き着いたのだった。

 

ハイデッガーの本来の問いは存在論である。なのだが、議論を進めるさいに人間の分析が必要になる。この人間の分析があまりに現実的で見事だった。心酔した私は、ハイデッガーの書籍、講義録、書簡を読みあさった。3月から9月までハイデッガーを読み続け、一度は熱が抜けたのだが、また最近になって存在と時間の新訳を読んでいる。再読しても発見があり、より深い解釈ができそうなので、人生を通してあと数回は読むことになりそうだ。

 

哲学のほかには、文学、物語も読むようになった。哲学を初めて以降、人間を面白く感じるようになった*8。今はガルシア・マルケス百年の孤独を読んでいる。津原泰水も良かった。

 

現代の本は読まないのか?あまり読まない。社会学と哲学、経済学の知識があると、身のまわりや世の中の出来事を自分で解釈できる*9政治学もあるとよさそうだ。計算機の時代なので計算機科学も役に立つ。もちろん興味深い本もあるが、5年経って淘汰されたものを読むのでもじゅうぶん間に合う。枯れた知識を仕入れるのは、目の前の情報に振り回されるより効率がよい。なので、来年も哲学、文学を読むと思う。あとは政治学言語学をやるかもしれない。

 

おまけ: 今年よかったあれこれ

iPad Pro

アシスタント作業と日記に使う。液タブより描きやすい。風呂蓋キーボードも便利。

GRIII

散歩のお供。ポケットから取り出してシャッターを切るUXがシンプルでよい。とはいえ、iPhoneよりシンプルかというと微妙なところ。タッチパネルに触れただけで起動してほしい。

寸胴鍋

大量つくりおきの道具。

鉄鍋

メンテナンスが楽な製品を買った。炒め物が美味しくなる。揚げ物もできる。

電気ポット

お湯の水割りがいつでも作れる。お湯は自律神経の調整に便利。

Clean Architecture 達人に学ぶソフトウェアの構造と設計

面白くて内容もよい本。システムの設計は依存関係の交通整理だと理解した。

珠玉のプログラミング

システム開発で大事なことが書かれていた。経験的に当たり前なことも、端的に言語化されてる点に価値がある。

SRE サイトリライアビリティエンジニアリング

前半だけ面白かった。章ごとの共著は品質にばらつきがでる。内容も練り上げられてない。

はじめてのUIデザイン

UI設計の入り口としてよい本。ユビキタス言語と絡めた議論ができそう。

データ指向アプリケーションデザイン

必修の教科書。マネージドサービスは裏が分散システムになっていることがある。仕組みの知識がないとパフォーマンスが出せない。

ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと

ピアノの話かと思いきや、本質的な姿勢の仕組みが解説されている。脳は背骨で支える。

医師のつくった「頭のよさ」テスト

頭のよさとは、自分の認知特性を知って最適化することだと説く本。本質的に正しい。各認知特性の特徴が具体的に説明されている。自己だけでなく他者理解にも有用。

知的生産の技術

日記をはじめたきっかけ。50年前のライフハック本だが、今でも通じる。

モビリティーズ 移動の社会学

現代社会の解釈に重要な本。グローバル化、移動の歴史について。

存在と時間

人間がよくわかってわからなくなる。高田の新訳がおすすめ。

コミュニティ

現代のコミュニティは泥臭く政治闘争をする組織。なぜかゲーティッドコミュニティ批判に議論が流れた。

社会学の考え方

ジグムント・バウマン節の本質オンパレード。アイデンティティを獲得するために、市場でアイデンティティキットを買う、という一節が良かった。

書くことについて

スティーヴン・キングの哲学。物語の作り方が本質的に語られる。

ピアノ再開

10年ぶりくらい?に再開した。音が鳴っているだけで楽しい。

日記の習慣

文章の練習と日常の記録、または遺書の代わり。iPhone / iPad / macのメモアプリに書いている。非公開な日記は何を書いても自由で最高。

しなければならないをやめる

予定詰め込みストレス対策。休日に何もしなくてもおおよそ死なないぞ。*10

スカーフ

首元を暖めると全身がポカポカになる。屋内でも首に布を巻く。常に使うので綿製品がよい。

人および自分は必ず死ぬ

存在と時間の影響。これを常に意識している。交通安全と健康意識にも繋がった。

 

課題

姿勢

よい姿勢をとれるが長時間続かない。インナーマッスルや背筋が足りていないかも。身長を1cmあげる気持ちで体幹を伸ばすとよい。

胃腸

運動習慣と食事、無の時間に気をつけたい。胃腸がちゃんと動いていると疲れにくいような気もする。

料理

寸胴鍋料理のレシピを増やす。

*1:さしすせその概念、ソフリットで美味しくしたり。

*2:消えた記事だがtumblrに引用が出回っている。

*3:何も持たずに散歩をするのがよい。歩行の動きで内臓の位置がリセットされるとか。

*4:最近胃腸の動きがわかるようになりました。

*5:ただし、コードレビューは指摘をする業務なので別である。

*6:技術書は業務中に読む。

*7:タイトルがかっこいいから読みたい。まだ積んでる。

*8:同時に、人間がよくわからなくなっている。

*9:解釈しつつ同時にその解釈を疑い続けることに注意する。

*10:毎日少しずつやると矛盾するようだが、休日は少しだけ鍬を入れたらあとは寝ていてもいい、くらいの意図。